プレイ中:花束を君に贈ろう-Kinsenka-
ランクA

イハナシの魔女 感想

制作 :Fragaria(公式サイト)
発売日:2022-08-13
ランク:A

セカイとヒロインどちらを選ぶかなど天秤にかけるまでもない。
※後半ネタバレ有り

攻略順

ありません1本道です。

感想(概要)

〇セカイ系ボーイミーツガール
主人公がヒロインと出会い、共に歩き、共に笑い、共に誓い、そして最後に「決断」をする。この王道of王道のファンタジーにはトキメキを抱かざるを得ません。

〇読みやすいテキスト
本作の最も秀逸な点だと思っています。軽快なテンポで話が進むのですごく読みやすい。必要十分な描写を見極める構成力はお見事です。

×コンフィグ不足
同人なのを考慮しても足りてなさすぎです。言い出したらキリがないですが、「クリックでボイスカット」だけは用意してほしかったです。

まとめ

流石は令和のボーイミーツガール作品として真っ先に名が挙がるだけはありますね。王道を踏襲しつつも小難しい説明を省くことで、小気味よいスピード読めるのむGoodです。

一緒に過ごす内にお互いの距離が縮まっていく甘酸っぱさ。二人が結ばれるのをクソッタレな世界が阻むやるせなさ。やはりいいですねぇ…このジャンルからしか得られない栄養素満点です。

次作もぜひ購入したいところですが、コンフィグはもう少し頑張ってほしいです。(バックログジャンプとボイスカットはほしい)

※以下はネタバレ有感想です。






感想(ネタバレ有)

■プロローグ

「あれ?思ったよりハードモードだな?」

まさか野宿で出会うとは思ってもいませんでしたよ…これはこれで趣がありますが、想像していたよりずいぶんワイルドでしたね。

最初こそ警戒心しかなかったリルゥですが、徐々にペットボトルの開け方みたいなくだらないことで口争うようになる。こういう距離感の微妙な変化いいですよね…ボーイミーツガールの醍醐味ですよ!

損得はあれどお互いに心を許しあっての共同生活スタート。プロローグとして上の上ですね。ここからどんなお話がまっているか期待で胸がおどりまくってました。

また本作のテーマは「自己決断」というセカイ系によくあるテーマですが、これを分かりやすく描写し、徐々にスケールを大きくしていく構成力も素晴らしかったです。

■アカリ編

家のしきたりのせいで夢を叶えられない。家柄こそ特殊ですがお話自体はよくあるものですし、原因が親に打ち明けらない臆病さというのも子供らしくて良いです。

幼い子供にとって親は絶対であり、宗教的背景があればなおのことその縛りは強烈です。逆らおうという気は起こすのは難しいでしょう。その気持ち私にも良く分かります。

「やりたいことを親に言う」これほど分かりやすい「自己決断」もないでしょう。まさに本作のテーマの入りとして持ってこいですね。真剣に話したら応援してくれるのも良い親であれば自然なことです。

魔法の使い方も気に入っています。あくまでリルゥのやったことは祝女という魔法的なものへの対抗だけに留まっており、声優の道を勝ち取ったのはあくまで「自分の力」だというのが良い。一人の少女の成長物語として良く出来ていました。

■保険販売員編(紬編)

比嘉さんにイラつきを覚えなかったと言えば嘘になります。不器用なのはともかくノートに頼りきっている姿を見る度にため息が出たものです。無論、彼女の背景を知った今となってはそんな気持ちは微塵もないです。やはり「理解」は重要ですね…

彼女の半生は不幸と言わざるをえません。お祖母ちゃんへの恩返しのためにアイドルをしていたのに、反グレに大事なお金を取られ、大好きなお祖母ちゃんの死に目には会えなかった「何にもなれなかった人」

状況が状況なだけに、魔法でお祖母ちゃんの魂を呼び寄せるぐらしか手がないのは分かっています。それでも死人を頼る展開は好みではありません。「自己決断」の起点はあくまで本人の意志にしてほしかったです。

でも呪いから解き放たれ、自分のテンポでアイス屋さんをやっている彼女を見ると晴れやかな気持ちになるのですから我ながら現金なものです。

なんだかんだ言って、今まで報われなかった人が幸せそうにしている姿を見ると、嬉しくなっちゃうんですよね。

このルート最後の告白はかなり気に入ってます。光→紬への好意って、アカリ編でのアカリ→光と好意と同じで、対等ではない「憧れ」なんですよね。本作はこういう仕込みが本当に上手いです。

■リルゥ編

コテージでのお泊りは楽しかったです。声つきのキャラは全員個性的で皆好きです。ここでの楽しいひと時を共有したからこそ、後の展開の燃料になっている感じがしますね。

光がなにか抱えているのは分かっていましたが、「好きな人に近づくと目が見えなくなる」ほど重症だとは思ってませんでした。それでも「好き」を伝えてくれ、「対等」でいたいと言ってくれるリルゥの真っすぐな想いには胸を打たれるものがあります。

光と対等に一緒にいたい。そんな謙虚な願いさえも「クロテズリ様」という天災によって叶わなくなる。彼女の家族(愛した者)といたいという、当たり前の願いが一度もかなわないことを「理不尽」と言わずして何と呼ぶのでしょう。

避けられない死に向かうリルゥと最期のそのときまで一緒にいたい。これですら光のような子供に要求していい覚悟ではありません。その覚悟を潰しリルゥの生死という天秤にのせるまでもない選択をさせることが「不条理」以外のなんだというのでしょうか。

「どうしてだか罪のない人間ばかりが損をする」

大里信士の言葉は全く持ってその通りです。セカイと己の無力感への苛立ちがこもった彼の言葉に強く共感せざるを得ません。それこそ目から涙を流すほどに。

だからこそ一度選んだ道を行き切った光はとってもカッコよかったですよ。セカイ系というのはねもう結論がでているのですよ。だってセカイとヒロインを天秤にかける必要なんてないんですから。

「リルゥを救うためならば世界などいらない」

100点満点の解答です。そしてなによりリルゥ編終了後のタイトル画面が素晴らしい。

太陽の下で笑顔で暮らす二人を見ると私の考えが間違っていないことを実感します。彼らが笑顔でいられる…それが正しいセカイなのですよ。

■TRUTH

背景設定を入れると光リルゥの物語からズレかねないので、そういうほとんど省いたのは英断だとは思っていますが、こういったTIPS見たいな形で設定が読めるのは良いですね。

全部読むと「Thank you for playing!」が表れ、クリックするとアカリちゃんが「ありがとうございます!」と言ってくれるのですが、こういうの嬉しいですよね。

ぜひ次回作でも入れてほしいものです。

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